A01
き裂先端での応力集中を緩和し強靭化するガラスの不均質構造設計
篠崎 健二
産業技術総合研究所ナノ材料研究部門・大阪大学大学院工学研究科
「剛」な無機ガラスは、硬くて変形しにくい特性を持ちます。しかし、その硬くひずみにくい性質ゆえに、き裂の先端に巨大な応力が集中し、容易に割れてしまいます。ガラスは最も脆弱な経路で破壊するため、例えば強靭な相をまばらに形成するだけでは効果が薄く、き裂の経路が極端に大きくなるような針状結晶などを多量に分散させることが靭性向上のセオリーでした。A01班篠崎グループでは、これら従来のアプローチとは全く異なる方法を提案します。具体的には、「剛」なガラスに「柔」な相を微量導入することで、硬さと靭性のトレードオフを超越したガラスを実現します。この強靭化メカニズムや最適なガラス材料設計を明らかにし、産業応用可能な方法で割れの問題を克服したガラスの実現に取り組みます。
A02
不均質ミクロ構造群をベースとした均質網目構造制御による多機能金属設計指針の確立
菊池 将一
静岡大学工学部
「剛」な金属は、硬いにも関わらず塑性変形できる特性を有しています。しかし、高強度化を意識するあまり結晶粒を微細化し過ぎると、延性が失われてしまいます。一方、延性を確保するために結晶粒を大きくすると、強度は低下してしまいます。すなわち、均質組織を有する金属において、強度と延性はトレードオフ関係にあります。A02班菊池グループでは、従来の均質化アプローチとは全く異なる方法を提案し、あえて不均質な金属組織を創り込みます。具体的には、「剛」な微細結晶粒組織が「柔」な粗大結晶粒組織を取り囲む網目構造に制御することにより、強度と延性のトレードオフを超越した金属を実現します。ミクロには不均質ですがマクロには均質な網目構造の有効性を実証するとともに、産業界で問題となっている疲労破壊にフォーカスし、金属材料設計学におけるパラダイムシフトを引き起こします。
A03
変形で誘起される不均質構造の制御に基づいた強靭透明樹脂の設計指針構築
加藤 和明
東京大学大学院新領域創成科学研究科
「柔」なプラスチック(高分子樹脂)は、軽くて成形加工性に優れた材料であるため身の回りにあふれています。しかし、脆くて耐久性の低いものが多いため、環境汚染につながっています。脆さを補うためにゴムなどの柔らかい材料を分散させると、弾性率や降伏応力が低下するため硬さと伸びの両立は困難で、しかも異なる材料を分散させた均質材料を得るためには界面の制御が不可欠です。これに対してA03班加藤グループでは、「剛」な骨格を形成する分子と「柔」な変形を実現する分子どうしを幾何学的に連結することで得られる均質材料が、変形に応じて特定の不均質構造へ転移して硬さと伸びが両立できることを見出しています。様々な分子構造と幾何学的連結性を有する樹脂の破壊プロセスを系統的かつマルチスケールで解明し、あえて特定の不均質構造を経由してから破壊するよう設計することで破壊を防ぐという当該設計指針の有効性を実証し、高分子材料設計学におけるパラダイムシフトを引き起こします。
A04
不均質・二重網目エラストマーにおけるき裂進展抑制の分子機構解明
中島 祐
北海道大学大学院先端生命科学研究院
「柔」なエラストマー(ゴム・ゲル)は、時に10倍以上の大変形が可能な柔軟高分子網目材料であり、その力学特性は主に高分子網目の構造によって決まります。しかし均質な高分子網目を持つエラストマーでは、その弾性率・強度と伸長性がトレードオフ関係にあり、一方を向上させるともう一方の特性が低下するという問題がありました。一方で我々は、「剛」な主網目と「柔」なサポート網目の二重網目構造を有する不均質エラストマーが、強さと伸びを兼ね備えた、上記トレードオフを超越した強靭材料となることを見出しています。A04班中島グループでは、二重網目エラストマーの強靭性の源である高いき裂進展抑制能の分子機構をマルチスケールで解明します。さらに得られた分子機構を材料設計に活かし、産業用エラストマーの二重網目化による強靭化につなげます。
共同研究者:
木山 竜二 北海道大学大学院先端生命科学研究院
領域アドバイザー
- 京都大学 名誉教授
北村 隆行 - 東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任教授
伊藤 耕三 - 名古屋大学工学研究科 教授
荒井 政大